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女性は私の髪を撫でる。
女性の涙が私の頬を一筋流れた。
私は、目をゆっくりと開く。
「どうか、どうかご無事で」
女性の長い髪の優しい匂い、温かく柔らかい温もり。
抱きしめてくれて、こんなに私は幸福なのに。
何故女性が泣くのか、私にはわからない……
女性は再び少年に私を抱かせると、社の中央部へと導いた。
固く瞳を閉じると、まるで振り切るように女性は少年から離れ、社の扉を背にすると。
こちらに向かって振り返り手を合わせ、言の葉を紡いだ。
女性の言の葉と共に、社の床が輝いた。
八つに伸びた光りの線が、少年の周りを踊りながら走り出す。
光りの線と月光が共鳴し、大きく輝いたその刹那。
大門の向こう側より、爆音が鳴り響いた。
「!?」
怒声と足音が無数に押し寄せ、橋が悲鳴をあげる。
未だ続く言の葉に、床を踊る輝きはまた更に大きくなっていく。
私は輝きに圧倒され、混乱するばかりだったが。
一方、少年は目を閉じ、ひたすら時を待っているかのように落ち着いていた。
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