一章

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「ありがとうございました!」  今日も一日の訓練の終わりの挨拶を済まし、新下級騎士達はシャワーを浴びる為に駆け足で隊舎に向かった。  そんな中、唯一急がず悠然と歩きながらその実、一番汗臭いアルベールは軽く溜め息をついた。 「もう十台程シャワー増やせないものかな…汗臭いまま待つのって結構苦痛なのになぁ」  どうやら急がないのは匂いが酷い事を自覚し回りの迷惑を考えた結果らしい。 「仕方ないだろう?今回は新騎士達の数が多いんだからさ。にしても、クっさいなぁ~アルベール」  本日の指導役だった兄のカイセリックに臭いと言われ少しショックを受けた様に顔を俯かせるアルベール。 「だって仕方ないじゃないか、真剣にやってたら必然的に汗かくんだからさぁ。そりゃ兄さんは指導役だからそんなに暑くなかっただろうけどさ…」  小声でぶつくさ言ってるが、やはり匂いを気にして少し距離を置いている。 「本当に真面目腐った奴だよな~。少しは俺みたいに力を抜くって事もしないと過労で倒れるぞ?」  飄々とした雰囲気で軽く言ってるが弟を気遣っているのはその言葉尻から伺える。 「大丈夫だよ、兄さん。心配してくれてありがとう。……シャワー空いたみたいだから浴びてくるよ」 「おう、行って来い。そして、匂いをとってから家に帰ってこいよ」     ~シャワー室内~    温水が床を叩く音を聞きながら身体の匂いをとる様に丹念に洗っていると後ろから呼び掛けられるアルベール。 「なぁ、ガトー。お前ホントに18か?何か身体付きが18にしては凄過ぎなんだけど」  呆れ半分といった感じで聞いてくるが、アルベールの身体に不思議を持つのも仕方がない。  筋肉がついていながら引き締まっており、その身体には無数の傷跡があるのだから背後から見たら何処の歴戦の勇者かといった雰囲気である。 「ああ、自分の祖父が厳しい人で小さい頃から鍛えられてきたんですよ。でも、まだ祖父には構わないんですけどね」  自笑しているアルベールだが先程話しかけた騎士はあんぐりと口を開いていた。  この様な会話は周知の事実になるまでぽつぽつと一月程訓練後のシャワー室で続いていた。
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