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どっ、と心音が大きく鳴った。ダメだ、私。きっと顔が赤くなっている。
「だって、お前といると楽しいんだもん。比べるのもおこがましいくらい、誰より一番楽しい」
「べ、別に?ただ二人で、店ん中歩いてるだけじゃない。そんなじゃないわよ…」
最後だけ声が小さくなる。心とは裏腹に言葉が紡がれてしまう。焦り過ぎて自分の口を塞ぐことすら出来なかった。
「……楽しくない?」
すぐ隣の空気が変わった。楽しそうに明るい色を放っていたのが、少し落ち込んでしまったようだ。
や、嘘よ、うそ!!肺の空気が奪われて思ったように声が出ない。そもそも隣のやつが、落ち込んだオーラを発する性で、言葉を発しにくい状況を作り上げてしまっている。
素直になれば、楽しかったに決まっている。でも、すぐにはすぐ言葉に出せない。素直じゃないんだ。
楽しいよ!言葉にしなきゃ分かんない!?分かる訳ない。分かる訳がないんだ。息をつくのと同時に言葉が零れた。
「…馬鹿」
思ったより冷たい声が出た。自分の気持ちを抑える自制心の行き過ぎだ。
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