1、電車

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 先ほどまで乗っていた満員電車と違って、乗客は五、六人ほどしかいない。閑散とした車内を見渡して、私はできるだけ乗車口から離れた席に座った。  入ってすぐの短いシートに大輝が座るということは、長い付き合いで知っていたから。  気分で座る席を変える私にはお構いなく、大輝はいつも降りやすい席を選ぶのだ。  昨日と変わらない景色を車窓から眺め、私は小さくため息をついた。  風景が変わっていく。長く電車に乗れば乗るほどに、マンションやビルは姿を消す。  この線路は山に穴をあけて作られたそうだ。何度も何度もトンネルの中を通る。緑が見えたと思ったら、すぐに目の前に壁があらわれる。よく見ると電線なのか何なのか分からない黒い線に気づかされるのだけれど、一年半の間同じ景色を見ているから、もう飽きた。  そのうちに、一人、二人と乗客が減ってゆく。気がついたら車内にいるのは、私と大輝の二人だけだった。
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