1、電車

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 無人ホームに立って空を見上げると、半分くらいが赤く染まっていた。四時に高校近くの駅から乗っても、最寄り駅に着くまでに時間がかかる。携帯を取りだして画面を見ると、六時半を過ぎていた。  電車の走る音が遠くなり、線路の向こうに消えていく。すると途端に周りが静かになるのだ。正確に言えば蝉の鳴き声だとか、風が吹き抜けていく音だとかは聞こえるのだけれど。  言うなれば、今どきの――せわしなく急ぐ人間らしい音がなくなったということか。  いつの間にか、大輝の姿はホームから消えていた。 「大輝?」  名前を呼んでも返事はない。  ――やっぱり、一人で帰れってことか。  さっき私が言ったことは、冗談として受け取ってもらえなかったのだろう。  寂れた灰色のホームに一人残された私は、なぜだか急に悲しくなった。  それを紛わせるために唇をかみしめて、私はホームから、舗装されていない道へ出る。  一時間歩けば、ちゃんと家に着くのだ。そう自分に言い聞かせてみたが、脳裏には大輝の姿が浮かんできた。
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