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「でも咲も気になるんとちゃう?」
麗夜は横目で咲を見下ろす。
咲は目を伏せた。
「それは気になりますよ」
―――謎だ。
そう思ったのは三人だった。
『俺は導かれるようにこの学校に来てしまった。
そしてあの生徒会長に出逢って、今ここにいる…。』
男子部員の説明が終わり、阿曇から離れる。
阿曇は一礼し礼を述べると早速、的と向き合った。
「フゥー……。」
目を閉じ深呼吸をする。
『弓道部に入り、生徒会長となるべく一緒にいたい。
あの記憶がかなり気になる…。』
パチッと目を開けると流れるように弓を引く。
「ア、イツ…!」
「…!」
その動きは初心者とは思えないほど落ち着いたもので、咲も麗夜も驚き、釘付けになる。
シュバン…!
的に当たる音。
フッと手を下ろし一息つく。
「ま、マジかいな…。
的に当てやがったで。」
「なんなんですか、この人。本当に初めて?」
驚く二人と阿曇が向き合う。
「どう、でしたか?」
「どう、って……。」
いつも冷静な麗夜が珍しく動揺していた。
『何だ……?俺、この光景……初めてやない……?』
「凄いですよ、萩元さん」
戸惑っている麗夜をチラと見ると、咲は一歩出て阿曇に笑顔を向けた。
「本当に初めてなんですか?」
「あ、……そうだと思っていたんですが…。」
阿曇は自分の両掌を見て続ける。
「矢を放ったとき…なんかこの感覚、知ってるな、とか思ったんですが…。」
掌から咲へと目線を移し。
「俺、やったことあるかもしれないッス。」
「でも中学じゃあ帰宅部でしたよね?好きではなかった、ということでしょうか。」
「あ、いや……その、家がゴタゴタしてて部活なんてできなかったんスよ」
「そうでしたか……。」
「実際やったことあるゆーても、それいつのことやねん。」
麗夜は咲の後ろから歩み寄り、彼女と並び、阿曇を視界に映す。
「初心者っちゅー言うても可笑しくないやろ。」
「ま、まぁ……記憶に無いくらいですからね……。」
阿曇は頭をかきながら俯き言う。
「にしても兄ちゃん好きなスポーツはバスケっちゅー情報が入っとるんやけど……。」
阿曇はそれを聞き、そんな情報をもう仕入れてるのか、と驚いたが表情には出さずに平然と答える。
「好きなスポーツとか嘘ですよ。」
「ウソ?」
麗夜は眉をひそめる。
「ありませんかね、好きなスポーツなんて。
ただ……。」
「…ただ……?」
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