『追跡、接触』

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七月十日、午前九時十三分。 現在、鞍馬先輩の《コンタクト》からの上井の位置情報を元に、先輩の車で移動中。 俺が助手席、先輩が運転席。 「あのー、先輩? 上井の現在地まであとどのくらいかかりますか?」 「んー……? あと五分、ってとこだな」 俺の問いかけに先輩が気だるそうに答える。 「え……。 それじゃあ今上井がいる場所って……?」 今は走っているのは一般道路。 集合場所を出発してから、約十五分程経っている。 途中で本部から南、昨日俺が襲われた場所を通り、現在はまだ人通りの多い都市部を走行している。 つまり、上井の現在地は…… 「あぁ……また人が多い場所にいるもんだな。 ……さすが若者。 しかも大通りを歩いて移動してやがる。」 若者って……先輩もまだ二十二歳でしょうが。 まぁそれはいいとして、問題は人通りが多い場所にいる現在、どう確保するかだ。 無理に捕まえようとすればヤツの能力だと、周りの一般人に危害を及ぼす事になりかねない。 「とりあえず尾行しますか? 上井が単独行動をしているとは限らないし……」 「あぁ、そうだな。 とりあえずターゲットを発見したら様子を見て……ん?」 途中で何かに気がついた先輩が口を止め、車を自動走行モードに切り替える。 そしてカーナビの地図を眺めだした。 「……どうしたんですか?」 「いや……どうやら尾行の必要も、周りに危害が及ぶ心配も無いようだ。 ……上井の現在地がある場所で止まってから移動していない。 距離から考えると……恐らくあいつのいる場所はここだ」 そう言うと、先輩が地図の中の一点を指差した。 『赤瀬ドーム』 ああ……なるほど。 先週、何者かの手によって爆破されたと報道され、近々取り壊す予定になっているドーム。 現在は半壊状態のまま放置されている。 近々取り壊される予定の、ましてや半壊したドームの中に入るやつなんて普通いないんだから、一般人に危害が及ぶわけが無い。 だが…… 「なんでそんな場所に上井が……?」 当然の疑問だ。 何をしている……? 行っても何も無いだろ……。 「わからん。 ただ、警戒はしておけよ。 何の目的も無いのにそんな場所には行かないだろうからな」 可能性としては……誰かと会うとかか? 誰と会う? そして仲間はいるのか? ……実際行ってみるまでは何もわからない、か。
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