『追跡、接触』

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素早く後ろを振り返る。 夏にも関わらず、ファー付きの黒いコートにジーンズの長身の男。 年齢は恐らく三十前後。 黒い長髪はボサボサで無精髭を生やしているが、その鋭い目からは威圧感を感じる。 通路は薄暗いが、右手にチョークのような物体を持ち、こちらに向けているのが確認できる。 あれは……金属の棒? 「もう一度問う……誰だ? 何の目的でここにいる?」 メインホール内にいる上井には聞こえない程度の声量。 しかし完全に敵対心を剥き出しにした言い方。 「……そっちこそ、こんな場所で何をしているんだ?」 「今質問をしているのは俺だ……!!」 先輩が探りを入れようとするも、全く応じない。 だが、これだけはわかる。 敵だ。 それも、相当戦い慣れている。 数秒後、沈黙を破ったのは男の方だった。 「返答は無し、か……。 ……ならば、敵と判断させてもらう」 実戦経験のあまり無い俺でもわかる程の、殺気。 何か来る……!! すぐさま《キープ・アウト》を発動。 範囲は俺の目の前、高さ二メートル、横幅一メートル、厚さ三センチを指定。 侵入禁止対象は『金属』 わかりやすく言えば、目には見えない壁を創りだす。 半球状に発動するより体力の消費は少ないが、耐久力としては球体に劣る。 それに侵入禁止空間とは言え、あまりに過度の衝撃が加わると耐えきれず、対象を通過させてしまう。 だが銃弾程度の衝撃なら硬度としても、大きさとしてもこれで大丈夫なはず……!! 「……死ね」 男が発した短い言葉と同時に、右手の金属矢が俺の胴体を目掛けて『撃ち』出される。 やっぱり撃ってきた……!! 確実にこいつの能力だろうが、そんな小さな金属矢には侵入禁止空間は通過できな……い……? なんだ……? 男の右手から撃ち出された金属矢は《キープ・アウト》で創られた見えない壁にぶつかり、そのまま空中で止まっている。 なぜ空中で止まっている……? しかも金属矢は少しずつ、進み続けている。 「煉!!」 先輩の怒鳴り声。 それと同時に先輩に身体を引っ張られ、メインホールの床に倒れ込む。 その直後。 金属矢が壁を通過し、肉眼で捉えきれない速度で通路を飛んでいった。
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