『追跡、接触』

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「あれを避けるか……ただの一般人では無いな?」 驚いているのか驚いていないのかはわからないが、特に表情は変えず、淡々と喋る男。 何だ、今のは……? もし先輩が俺を引っ張ってくれていなければ、今頃俺の腹に刺さるどころか風穴が空いていたかもしれない。 「……そりゃどーも。 ま、こっちも簡単にやられるわけにはいかないんでね」 先輩が立ち上がりながら、言い返す。 ……突然の事で頭の整理がつかない。 恐らくあいつの能力は『物を撃ち出す』能力のはずだ。 現に今、あの男は手に持っていた金属の矢を投げるのではなく、『撃ってきた』。 だが……あの程度の金属矢が俺の《キープ・アウト》の壁を突き破れるはずがない。 「あんた……今何をした?」 男に問いかけ、腰のポーチから拳銃を取り出しながら立ち上がる。 ……桜井さんとの話の後、そのまますぐに本部で怪我の治療をしてもらっておいて正解だったな。 「それは俺の方からも聞きたいな……さっき俺の矢が何かにぶつかったようだが、お前の能力か? ずいぶんと妙な能力を使うもんだな」 男はコートの両ポケットから再び金属矢を取りだし、両手に一本ずつ持ち、狙いを定める。 その時だった。 「あ、あの……これは一体……?」 「チッ……おい、おっさん!! 取引中に何やってんだよ!!」 後方、ステージの方から女性の怯えた声と、上井の怒鳴り声。 取引……? 「仕方ないだろう。 それよりお前の知り合いか、こいつら?」 「あ? そんな奴ら知らな……」 目の前の男が上井に問い、上井は俺たちをじっと見る。 「おい、取引だけどな……ちょっとだけ待ってくれ。 ……いやぁ、まさか昨日の今日でまた会えるとは思わなかったぜ。 なぁ、ガードの霧谷君よぉ?」 俺の顔を確認した途端に、上井は嬉しそうな声を出した。 そして前を向くと両手に金属矢を持った男がなるほどな、とでも言いたげな表情で俺達を再度見る。 俺達がガードの人間だと理解したのだろう。 ……この状況……マズくないか? 隣の先輩に目をやると、それに気づいてか、小声で呟いてきた。 「……作戦も何もあったもんじゃないな。 俺は上井を捕らえる。 煉は……こっちの男の相手をしろ。 倒すのが無理なら、時間を稼ぐだけでもいい」 ……マジですか? だが、迷っている暇も無い。 俺と鞍馬先輩は別方向に、それぞれ駆け出した。 ────
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