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……ああ、またか。
「……まったく、面倒だ」
つい口に出してしまう。
ああ、愚痴も言いたくなるさ。
今回の取引のためにせっかく人のいない場所をわざわざ探してやったというのに……。
上井のやつ……面倒事ばかり起こしやがって。
一応俺のパートナーだが、一度足でもぶち抜いてやろうか?
だが、その前に……
「お前から、だ……!!」
ステージに向かって右の男は座席の陰に隠れながら、上井の奴に向かって走って行った。
逆側、左には俺を意識しながら走っている……顔は悪くないが、なんだか冴えない、中肉中背で黒髪の少年。
こっちの少年が俺の相手らしい。
大して戦闘には慣れていないように感じるが、上井が言った通り、『ガード』ならば訓練も受けているだろう。
容赦はしない。
『掌より小さい物体を撃ち出す』能力、《ハンドガン》
右手の鋼鉄の矢はあいつを直接狙って。
左手の矢はその進行方向のやや前方の位置に。
速度は180キロオーバー。
左右の矢を同時射出!!
「またか……!!」
少年が俺の『射撃』を見て、ぽつりと呟く。
一本目の矢をあいつは前に飛んで避け、二本目の矢は何かに空中で弾かれ、その場に落ちる。
こいつの能力……やはり見えない『何か』を作り出しているようだな……。
「お前……」
そう考えていると、立ち上がった少年が不意に口を開く。
「……お前も『イレギュラー』か?」
……そんな質問か。
「……何故そう思う?
根拠は?」
「さっきの通路での攻撃と、今の攻撃。
少し違ってただろ……?」
……観察力は悪くは無い。
たしかに、ヤツが言っている事は正しい。
今撃った二本の矢は、《ハンドガン》自体の設定速度を上げただけだ。
逆に、通路での射撃は速度はあまり出していない。
だが代わりに俺の第二能力、《絶対貫通》……《スティンガー》が矢に付与されていた。
要は撃ち出した物が一番最初に触れた物体に限り、進行方向に力を加え続け、それを『貫通』させる能力。
撃ち出した物体の強度が耐えうる限り、距離、速度、厚さを問わず『貫通』させる。
色々と細かい理論はあるが、要はそういう能力だ。
だが……
「第二能力が何か、まではわからないだろう?
……知りたければ自分で考えて当ててみろ!!」
俺は調子に乗ってペラペラと喋る気は無い。
そして、ここで捕まるつもりもない。
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