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腰につけたポーチの中、野球ボール大の煙幕弾をいくつか取り出し、上井の周りに放り投げる。
着弾後、すぐさま視界を遮る白い煙幕が広範囲を覆った。
「煙幕か……面倒な事しやがって……!!」
煙幕の中から聞こえる上井の声から感じ取れるのは、苛立ち。
現時点ですでに上井の周り、メインホールの約四分の一程の範囲が煙幕に包まれている。
苛立つだろう?
操作する対象も、攻撃する相手も見えないんだ。
視界を遮られるってのは、何らかの物質を遠隔操作する能力者のほとんどに共通する弱点のはずだからな。
操作も上手くできないだろ?
すぐさま俺も煙幕の中へと駆け出す。
俺からも上井の姿は見えない。
だが……見えなくとも俺には上井の位置を知る方法がある。
位置把握のため、《コンタクト》発動。
対象の位置、すなわち上井の現在地を把握する。
……正面に四メートル、そこから左に一メートルの地点、左方向に移動中!!
目の前の座席を踏み台にし、その方向におもいっきり飛ぶ。
そして足音を立てずに移動している上井の後頭部に──
「がっ……!?」
──右足で、飛び蹴りを叩き込む。
「ここまでだな、上井?」
「て……めぇ……!!」
すぐさまうつ伏せに倒れた上井の背中に乗り、手錠をかけ──
「っ……!?」
──られない。
手錠を持っていた左手、親指と人差し指の間の辺りに銃で撃たれたような激痛。
思わず手錠を床に落とす。
上井のやつ……何をした……?
「さっさと……」
うつ伏せの上井が何かを喋り出す。
「蜂の巣に……なりやがれ……!!」
言い終わると同時に上井が握っていた右手を開き、何かを床に大量にばらまく。
これは……パチンコ玉?
まさか……!!
しゃがんだ体勢から咄嗟に後ろに飛び退く。
「くっ……!!」
だが間に合わず、前方から何かが砕け散る音と同時に、飛んできた大量のパチンコ玉のいくつかが身体のあちこちを撃ち抜く。
たかがパチンコ玉でも、威力的には散弾銃の類いとなんら変わりない。
爆発させた勢いで物を飛ばす……まさかこんな使い方もあったのか……迂闊だった。
「くそ……」
激痛に耐えきれず、地面に倒れこむ。
……これはヤバい、な。
「ストップ」
……何?
ステージ上から……女の声?
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