4847人が本棚に入れています
本棚に追加
────
……先輩が煙幕の中に入ってから約三十秒が経った。
俺も先輩を援護するべきだったかもしれない。
だが《キープ・アウト》を短時間に使用しすぎたせいだろうか、身体にだいぶガタが来ている。
後ろで気を失っている男を監視していた方がいい。
今の俺では足手まといだ。
そして、本部への連絡もしておいたから後は先輩に任せておけばいい。
そう考えていたが……。
「……鞍馬先輩?」
先程から煙幕の中で動きが無い。
何が起きている……?
……煙幕が次第に晴れ、中の様子が見えてきた。
……え?
立ったまま動かない上井。
意識はあるようだが、身体中から血を流しながら床に座り込んでいる先輩。
先輩……!?
ステージに向かって走り出す。
足が重く感じるが、そんな事を気にしてはいられない状況になった。
……正面のステージの上に誰かが立っている。
ステージに近づくにつれ、段々と容姿が確認できるようになる。
……サラサラの黒髪の長さは腰の上辺りまであり、白いワンピースを着ている少女。
肌は白く、顔にはまだどこか幼さが残っているため中学生ぐらいに見える。
……さっきまでいなかったぞ?
誰だ、あの子は?
「……そこのアナタも。
ちょっと待ってくれない?」
「……?」
こちらを向いた女の子の言葉を聞き、俺は足を止める。
敵意は無いのか……?
俺が立ち止まったのを確認すると女の子はフッ、と微笑んだ。
「……一体何の用だよ?
何でお前がここに……」
上井が女の子を睨み付けながら問いかけ、逆に女の子はゆっくりと上井に顔を向ける。
……まさかあの子も上井の仲間なのか?
「何で、って聞かれたら……。
うん……警告かな?」
「……警告だと?
おいおい……ちょっと待てよ。
俺達は与えられた仕事さえすれば、後は自由にしていいんだろうがよ!?」
上井が怒鳴るが、女の子は顔色一つ変えない。
「……たしかにそう言った。
でも──」
そこで一度言葉を切り、続ける。
「──多少なら組織の事が知られるのは別にいいんだけど、あまり勝手に暴れられると困るの。
……あなた、自分が好き勝手に行動し過ぎてるのわかってる?」
「あ?
そんなもん、俺の……」
「……報酬、無くなってもいいの?」
「……っ!!」
女の子の言葉に、上井の顔がひきつる。
……報酬?
最初のコメントを投稿しよう!