『最凶の男』

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俺の身体が、地面へと落下する。 「っ、はっ……!!」 自然と深呼吸を行い、肺に目一杯空気を取り込む。 ……何が、起きた? 櫂度に掴まれていたはずなのに……俺の心臓目掛けてあの黒い刃が突き出されたはずなのに……。 まだ、俺は生きてる。 「は? ……あァッ!?」 一瞬遅れて、悲鳴にも似た櫂度の叫び声。 同時に櫂度の右腕の『断面』から噴き出した鮮血が、辺りの地面を濡らす。 ……何だ、この状況。 櫂度の右腕が、手首の辺りでスッパリと切断されている。 ……マジで、何が、どうなった……? 「……俺の部下に何してやがる、ガキ」 「が……っ!?」 目の前の、何も無い空間から現れた暗い赤髪の男。 手には、血塗れの手斧。 その人は、前屈みになって右腕を押さえていた櫂度の顔面を、蹴り上げる。 蹴られた櫂度は後ろに仰け反り、地面に倒れ込んだ。 「……間宮部長……何でここに?」 ため息を一つついた間宮部長は右手に持つ手斧を横に薙ぎ、刃に付着した櫂度の血を払うと、振り返って俺を見る。 ……見下すような目で。 「音といい戦闘の規模といい……目立ちすぎなんだよ、お前ら。 で、目的地に行くついでに少し覗いてみれば、そのザマか。 ……まるでボロ雑巾だな、霧谷」 「……そう見えても仕方無いとは思いますけど……これでも頑張ったんですよ、俺」 あぁ……よく頑張った、俺。 アイツ相手に死ななかった、それだけでも俺から言わせてもらえればすごい事だと思う。 「しかも間宮部長が今倒し」 「キ……ヒャハハハハッ!! あー、いってェ、超いってェ……!!」 ボリューム最大じゃないかと思う程の櫂度の声が、続けて喋ろうとした俺の言葉を遮った。 数秒間笑い続けた後、櫂度はピタリと笑うのを止めて真顔になる。 「……お前、誰だ? 《逆さ回りの懐中時計》」 すぐに、その現象は始まった。 切断されたはずの櫂度の右手首が、元に戻っていく。 生えるのとはまた違い、紙がペタペタと貼り付けられて段々と腕が形成されていくような、そんな感じ。 能力名からすると、多分『時間を巻き戻す能力』……だろうな。 ……まぁ、時間を巻き戻すとはいっても、おそらく一定範囲に限定したものだとは思うが……。 ……そんな能力も持ってたのか、こいつ。 どこまでも滅茶苦茶な奴だな。
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