4847人が本棚に入れています
本棚に追加
俺の身体が、地面へと落下する。
「っ、はっ……!!」
自然と深呼吸を行い、肺に目一杯空気を取り込む。
……何が、起きた?
櫂度に掴まれていたはずなのに……俺の心臓目掛けてあの黒い刃が突き出されたはずなのに……。
まだ、俺は生きてる。
「は?
……あァッ!?」
一瞬遅れて、悲鳴にも似た櫂度の叫び声。
同時に櫂度の右腕の『断面』から噴き出した鮮血が、辺りの地面を濡らす。
……何だ、この状況。
櫂度の右腕が、手首の辺りでスッパリと切断されている。
……マジで、何が、どうなった……?
「……俺の部下に何してやがる、ガキ」
「が……っ!?」
目の前の、何も無い空間から現れた暗い赤髪の男。
手には、血塗れの手斧。
その人は、前屈みになって右腕を押さえていた櫂度の顔面を、蹴り上げる。
蹴られた櫂度は後ろに仰け反り、地面に倒れ込んだ。
「……間宮部長……何でここに?」
ため息を一つついた間宮部長は右手に持つ手斧を横に薙ぎ、刃に付着した櫂度の血を払うと、振り返って俺を見る。
……見下すような目で。
「音といい戦闘の規模といい……目立ちすぎなんだよ、お前ら。
で、目的地に行くついでに少し覗いてみれば、そのザマか。
……まるでボロ雑巾だな、霧谷」
「……そう見えても仕方無いとは思いますけど……これでも頑張ったんですよ、俺」
あぁ……よく頑張った、俺。
アイツ相手に死ななかった、それだけでも俺から言わせてもらえればすごい事だと思う。
「しかも間宮部長が今倒し」
「キ……ヒャハハハハッ!!
あー、いってェ、超いってェ……!!」
ボリューム最大じゃないかと思う程の櫂度の声が、続けて喋ろうとした俺の言葉を遮った。
数秒間笑い続けた後、櫂度はピタリと笑うのを止めて真顔になる。
「……お前、誰だ?
《逆さ回りの懐中時計》」
すぐに、その現象は始まった。
切断されたはずの櫂度の右手首が、元に戻っていく。
生えるのとはまた違い、紙がペタペタと貼り付けられて段々と腕が形成されていくような、そんな感じ。
能力名からすると、多分『時間を巻き戻す能力』……だろうな。
……まぁ、時間を巻き戻すとはいっても、おそらく一定範囲に限定したものだとは思うが……。
……そんな能力も持ってたのか、こいつ。
どこまでも滅茶苦茶な奴だな。
最初のコメントを投稿しよう!