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ただ一つ、私を魔王城から逃がす上で竜華が予見出来なかった事がある。
竜華はゴーストがどこに私を連れていくかまでは推定出来なかった筈だ。
(竜華ちゃん……私は私達にはないモノをゴーストが持っている事を知っちゃったんだよ……)
リリアは目を伏せる。
頭に浮かぶゴーストの家族。その家族に囲まれて騒がしくも幸せそうなゴーストの姿。
魔王城に戻り竜華を助けると決意したリリア。
それにゴーストもついて来るつもりだ。
だがそれは危険を伴う。それこそ生きて帰って来れるのかは分からないものだ。
ゴーストを連れていくという事は、ゴーストを家族から引き離す行為。
竜華に会うまでずっと独りで生きてきて、家族というモノに憧れたリリア。
竜華と龍神の件も相まって、リリアはその繋がりを引き離す行為が辛かった。
もう二度と『絆』は壊したくないから。
だからリリアの口からは、ゴーストを拒絶する言葉が出る。
ゴーストの、家族との絆を壊さない言葉を選んだ。
「──執事を解任するって言ったら?」
今度はゴーストが目を見張る番だった。
そこまでして1人で魔王城に行きたがるリリアの気持ちが理解出来ない。
リリアがゴーストに執事になるように仕向けた癖に、都合が悪くなったら解任する……
(解任するだと!?気に入らねぇ……!)
……そんな我が儘、気が短い自分には堪えきれる筈がないだろうが──と思った所でゴーストは気がつく。
執事という仕事で縛られていなくとも、自分にはもう一つの『鎖』がある事を思い出す。
それをリリアがいうように『絆』と、ゴーストは素直に思えない。
だが、『鎖』だろうが『絆』だろうが2つ以上のモノが繋がっている事に違いはない。結び付いているのだ。
言い方は違っていようともゴーストがリリアと『繋がっていたい』という気持ちは本物だった。
「『皇女の鎖』──この首輪はどうするんだよ?確か我が儘はまだ2つ残ってたよな?」
「……ッ!?」
だからゴーストは引き下がらなかった。
あれほど鬱陶しく思っていたこの首輪が、リリアとの繋がりだと気がつき、ゴーストは皮肉に思えた。
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