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心配そうな表情でこちらを見てくる母に、僕は少しばかり罰の悪い思いをしながらも、
「大丈夫だよ。最後のテストで取り返すから。」
と短く答えると、早々に視線を母からテレビへと戻した。
テレビの画面には、お笑いタレントの司会者にいやらしい質問をされて、困った表情で苦笑する若手芸人の顔が、アップで映し出されていた。
大して面白くもない芸人達のトークに笑う、僕の乾いた声だけが、狭いリビングに響いた。
母は黙ってテレビを見ている僕を、複雑な表情で見つめていたが、やがて小さくため息をついた後に、
「まぁ、あんたの人生だから、強くは言わないけどね。留年だけは勘弁してよ?ウチにはもう一年学校に送る余裕なんて無いんだから。」
とだけ言うと、風呂に入るためにリビングから静かに出ていった。
さりげなく、僕のソファの右隣に、赤い文字で留年の警告が記された、四つ折りの赤点通知を置いて、だ。
防寒のためにエアコンの真下を占領していたので、無造作に置かれた赤点通知は、エアコンから流れてくる生暖かい風に吹かれながら、テレビに映し出された若手芸人の年齢半分くらいしかない僕のテストの点数を、嫌味たらしく見え隠れさせていた。
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