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これがもしも普通の物語なら、ここで僕も彼女にニッコリと笑いかけて、キスでもして、ハッピーエンドだろう。その続きなんて、存在しない。
でも、僕は彼女に向かってニヤケたりはしなかった。むしろ、しかめっ顔で彼女を見ていた。
なぜなら、目の前にいる僕とはつり合わない程の美しい少女に、僕は見覚えがなかったからだ。
小学校、中学校から記憶を遡ってみたけれど、思い当たる節も無い。第一、彼女は僕と同じ年くらいの年齢だ。
睨みを効かせる僕に対して、彼女は相変わらず笑顔を崩さず、そして何も言わずに僕を見つめたままだ。
僕は少女と長い時間見つめあっていた。
何時間もそうしていたのかも知れないし、一分、もしかすると十秒も経っていなかったかも知れない。夢の中っていうのは、時間の感じ方が曖昧だって、子供の頃に本で読んだ気がする。
しびれを切らした僕が、何かを口にしようとすると、黙って僕の横に立ってた彼女の体が、一歩前に動いた。彼女の顔が、僕の目線から少しだけずれる。
彼女は二歩目を踏み出そうとしたが、突然地面に吸い寄せられるように、カクンと膝を折って倒れた。
僕はその時、真っ白な彼女の肩が黒ずんでいるのに気がついた。
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