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「何言っているんだ、魔美」
礼司は首をかしげた。翌日、礼司は全然寺から火葬場までのタクシーの予約を受け、10時50分には境内で車を停めて待っていた。すると、運転席の窓を魔美が叩いた。
「おはようございます」
「おはよう」
「今のうちに本堂に入って」
「うん」
礼司は本堂に入ると、仁の棺桶の前に立って天井に向かって声をかけた。
「おい、尾田仁さん」
すると、礼司の前に仁の霊が立った。
「残念だったな、仁君」
「うん、真奈の事が心配だ」
「犯人は?」
「種のようなものが口から入った」
「どこで?」
「鳥居を出た瞬間」
「そのあとは?」
「体中の水分が全部吸われて、体が木になった。あんたなら見えるだろう」
礼司が棺桶を開けると、普通のしわしわの死体にしか見えないが、手を合わせると全身が木になって口や耳から枝が飛び出していた。
「早く燃やしてくれ。気持ち悪いよ」と仁が言うと、
「本当だ」と、後ろから魔美が言った。
「おっ、魔美お前も見えるのか」
「うん、突然見えるようになった。この木の実がはじけて人の体に入るのよ。そして、発芽する時に人間の体の水分をみんな吸ってしまうの」
「1時の火葬で焼き殺せるだろう。もしかしたらお経で死ぬかも」
「そうかな」
礼司は本堂を出てタクシーに乗った。
その頃、本堂では葬式が始まり、お経が読まれ、口から出ていた木がしおれてきた。
「ああよかった。しおれてきた」
と魔美が言った。
葬儀が終わってまもなく、母親が仁の遺体口元にビールを含ませた。
「お前の好きなビールだよ」
その瞬間、口からしおれていた木が大きくなり、枝が伸びた。仁の遺体は霊柩車に載せられ、礼司が親族を乗せて落合の火葬場へ向かう途中、前を走る霊柩車の窓から枝を出し血のような真っ赤な花を咲かせた。
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