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第一章 双鬼
5月の連休明の日曜日の夜11時50分、ディズニーランドからの首都高速湾岸線の上りは渋滞をしていた。
ノロノロと動く車の中で、小百合は正樹の肩に頭をもたれた。
「今日は楽しかったわね」
「おい、あぶないだろ」
「大丈夫、この渋滞だもの」
正樹は、辰巳ジャンクションから首都高9号線に乗り換えて箱崎方面に向かいながらうんざりした口調で言った。
「相変わらずこの道わかりにくいなあ」
湾岸線に比べれば渋滞も解消されていたが、前方の車のテールランプはまだ見えていた。
しかし、12時を過ぎると突然もやがかかり、分岐点を左に入った急なカーブを曲がると前には1台の車もいなくなっていた。
正樹は小百合に言った。
「あれ。ずいぶんすいているなあ」
「本当だ。スピード出せるじゃない」
「おお」
正樹は目いっぱいアクセルを踏むと突然高速道路のライトが消えた。
「あれ道路が見えないぞ」
正樹はあわててブレーキを踏んも高速道路の突き当たりは壁になって見えた。
その壁には川のような傷にライトが当たって光っていた。正樹は左にハンドルを切るとそこも壁で、車は激しくぶつかり、フロントのボンネットは持ち上がってラジエターから水がこぼれていた。
正樹と小百合は額から血を流し前かがみに倒れていた。
大きく開いたエアバックがしぼみ、開いたドアから血がぽたぽたと道路に流れ、遠くからカリカリと言う音が続いていた。
ある夜の11時前、青山墓地脇の道路に緑色のボディに黄色のラインがついた一台のタクシーが停まっていた。
コンッコンッと助手席を叩く音に、運転席のシートを倒して眠っていた夜野礼司が気づいた。
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