第一章 双鬼

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「うふふ、凄いでしょ」  タクシーは木場へ近づく頃には、鬼に追いついた。 「あれだ」 「うん、そうそう言い忘れていた」 「またかよ」 「殺すのは12時までにね」 「ん?」 「12時を過ぎると鬼は表の世界へ行ってしまうから、また人を殺すのよ」 「そうすると……、おい、あと20分しかないじゃないか。もし失敗したら?」 「夜野さんが表の世界で鬼に狙われるの。首都高速を走ったら必ず殺されるわ」 「お、おい冗談じゃないぞ。運転手が首都高速を走らなかったら、仕事にならんだろう」 「そうね、頑張って。あっ、もう鬼はあなたの事を覚えているからね」 「ああ、わかった。しかし、右へ行ったり左へ行ったり困ったな」 鬼はジグザグに走ってレインボーブリッジへ向かって行った。 「おお射程圏内に入ったぞ」 礼司はライトをハイビームにすると、ライトを浴びた鬼は白くなって、走りが遅くなった。 「やった。10・9・8それでも時速100キロか……」  距離はどんどん縮まり、車は双鬼の尻に当たって橋の欄干まで跳ね飛ばした。 「やった」 「だめよ、弱すぎるわ。生きてる」   鬼はぶるぶると首を振って立ち上がった。 「おい、びくともしなじゃないか」 「うん、再生しちゃうから」 「最初からやり直しか」 「遠慮したらだめよ。相手は鬼だからね」 「わかってるけど、人を轢いた経験が無いもんでね。一瞬スピードを緩めてしまった」 「うふふ」 魔美は真剣な表情になった礼司の顔を見つめながら微笑んだ。礼司は再度アクセルを深く踏み込むと 「あと2回か」 「あと6分ね」   逃げ出した双鬼を追いかけながら、礼司は薄笑いを浮かべた。 「おい、この鬼ってバカだな」 「どうして?」 「ジグザグが3拍子、ワルツだ」 「1・2・3、1・2・3……、本当だ」
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