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話していれば時間も経つ。
夜になって夕食。
【俺】と祖父は店内で食事をとっていた。
メニューはガッツリオムライス。
喫茶店にしては巨大なこのオムライスは一食三百八十円のお得な品だ。
「それで、飯食ったら行くのか?」
「ん?」
「ほら神桜の…」
「ああ、これ食ったら行ってくるよ。花見に影響が出たら困るからね」
「そうか…朝までには戻れよ。獅子学の校長は事情を知っているから出席日数は問題無いが、勉強が遅れるのは問題なのだから」
「わかってる」
獅子学の校長もまた【俺】や祖父と同じく最初から怪奇が見える人間だ。
いや獅子学の校長だけではなく、この街の要職は皆が皆、最初から見えている人間なのだ。
そのため【俺】の事情もそういった人々からは周知の事実として黙認されている。
【俺】の事情。
まぁ特に隠す事でもない。他の連中に比べて、怪奇の世界に入り浸っているだけ。
この街にいる“最初から見える”人間の中で唯一怪奇と“戦える”人間。
という事情。
怪奇相手に人は無力だ。
怪奇は死なないし、殺せない。
まがいなりにも彼らは神や妖怪で、銃弾や刀では致命傷に至る傷は与えられない。
まぁ怪奇の作り出した武器ならば別だ。だが人間にはそれらの武器を扱えない。
対して【俺】は違う。【俺】は怪奇と戦う力を有している。
別段に便利でも、有意義でもない力だが、おかげでこの街で起きる怪奇の皺寄せは【俺】の所へやってくる。
ある時は怪奇同士の揉め事で、ある時は人間の依頼で…。
「好きでやってるから、別にいいんだけどな」
店を出て神寺までの道を歩きながら一人呟く。
歩いて十五分ほどの道のり。
ゆっくりと一歩一歩踏みしめながら、ぼんやりと歩いて行く。
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