-影ノ桜-

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陽嶺と月嶺。 色違いの豪奢な和装を着用し、長髪を二つに分けてまとめた同じ髪型に、同じ髪飾り、顔の作りも似ているが髪の色や瞳の色が異なる。 姉である陽嶺が紅色で、妹である月嶺が蒼色をしている。 陽嶺と月嶺は樹木に宿る自然神の一つで、強大な力を持っている二柱だ。 自然神とは精霊の上位版だと考えればいいだろう。 森や湖、山や川などが長い年月を経ると精霊化し、やがて神格を得て神となる。 近年では、山が切り崩され、川が汚染され、森が伐採され、湖が干上がったりと自然の減少が顕著なっていた所為で自然神や精霊の存在は見なくなったが、怪奇が“こっち”に現れてからは随分と状況は改善され、精霊程度なら良く見かけるようになった。 陽嶺や月嶺のような自然神は、まだ珍しいが……。 「さて、用件を聞こうか?」 「その前に……」 「ん?」 「なんか言う事があるでしょう?」 「なんだよ?」 【俺】は二人の意図が読めずに首を傾げる。 「冬の花見…」 「ああ、そのことか」 「『ああ、そのことか』じゃないわよ。どうしてこなかったの?」 二人が言ってるのは冬に行われた花見だ。 【俺】は怪奇が起こした事件に追われ、数ヶ月ほど家に帰れなかった。 冬の始まりと終わりの花見に行けなかった。 「ちょいと面倒な事件に関わってな。悪かった」 「もう、今年はちゃんと来てよね。他の人間はともかく、あんたや龍鳳は特別なんだから」 「特別なのは俺だけさ。じいさんは違う」 【俺】の顔が微かに曇る。 「あ、ごめん」 陽嶺も、しまったと言う表情をして口を噤んだ。 「あと、どれくらい?」 「さてな。そんなに先は長くない」 「もう…あたし達と関わるの止めたら?」 「そんな事が出来るわけないだろ」 【俺】は吐き捨てるように言った。 「【俺】は“怪奇”で、“人”だから。少なくとも“人”だけになる事なんて出来ない」 「少しは控えてね」 月嶺のやや涙ぐんだ声に【俺】は頷く。 「ああ」 「じゃあお願いと行きましょうか」
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