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(最近、奥のお寺に妙な怪奇が住み着いちゃったみたいでね)
(無害かどうか確認してきて欲しいの……)
二人の“お願い”を頭の中で反芻しながら【俺】は森を進む。
怪奇には人を喰わなきゃ生きていけない生物や人間の血を吸わなきゃ身体を維持できない種族がいる。
前者は“人喰い(マンイーター)”の系統、後者は“吸血鬼(バンパイア)”の系統なんかがこれに該当する。
そんな“人間”にとって有害な怪奇は山ほどいるが、“怪奇”にとって有害な怪奇は珍しい。
陽嶺と月嶺は自然神なので、森を焼いたり、汚染したりする類の怪奇だった場合は有害だと言う事になるのだろう。
だが進む先には火の気や不浄の気は感じない。
(だが何か妙だな)
感じるのは自然の気。
樹木などの生きる“物”の放つ気配。
「やはり妙だ」
あまりにも濃密な気配。圧倒的な生物の気配。強大な“神”の気配。
(これだけの力を奴らが感じとれないはずが無い……)
やがて森は開け、目の前にボロい寺が現れる。
しかしその寺は、過去の記憶とは似ても似つかない場所だった。
雑草だらけだった庭は綺麗に整えられ、荒れ放題だった墓周りは清掃されていた。
墓にたむろしている亡霊に聞いてみると、どうやらじいさんがたびたびやって来ては手入れをしていたらしい。
寺も崩れかけていた部分が補修されており、崩壊寸前の危機感は消えていた。
気配は寺よりも奥の方から流れていたが。
(ん?)
先ほどの“神”の気配は消えていた。
今流れてくるのはごく普通の精霊の気配。
(やはり、妙だな)
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