3rd prologue

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とある場所、とある家に少年がいた。 家…と言ってもその大きさは屋敷と呼べる程はあり、階数的には五階建てぐらいの高さを誇っていた。 その屋敷の屋根は平たく作られていて、学校の屋上の風景とよく似ている。 少年は屋敷の屋上に置いてある椅子に座り、まだ薄暗い空を眺めていた。 時間は申を越え、恐らく五時ぐらい。 右手にグラスを持ち、太陽が顔を出すのを待っていた。 数分の時間が過ぎると、眩しい光が目に入り、少年はうっすらと目を閉じた。 キリッとした鋭い目。 だが、その目の奥に映る優しい瞳。 風と踊る長い髪。 それが少年の第一印象だった。 右手に持ったグラスには赤い液体。 そしてグラスには、トマトジュースですが、何か?と描かれていた。 少年はグラスの液体を飲み始め、少しうっとりした表情を浮かべる。 その右腕には、手首より少し上に刺青のような刻印が刻まれていた。 それは聖霊が宿っている者のみに存在し、それを印すために刻まれる。 聖霊には種類があり、人の形をした聖霊を守護聖霊、それ以外の形をした聖霊を守護聖獣と呼ぶ。 少年の刻まれている刻印は狼。 つまり少年の聖霊は守護聖獣。 グラスに入った液体を飲みきり、少年は軽く吐息を漏らした。 ふと屋敷の全体を見てみると、屋敷の玄関にはフレイ家と描かれていた。 つまりここはアメリカ。 フレイとは、川田亮佑のアメリカでの名前であり、つまりここは川田亮佑の家という事になる。 という事はこの少年は川田亮佑なのだろうか。 否、そうではなさそうだ。 この少年の髪は腰ぐらいまで伸びている。 だが、川田亮佑には長い髪のスキルは無い。 という事はこの少年は川田亮佑ではないというように考えられる。 長い髪と刻印から考えられる者は一人しかいない。 ――…カツン、カツン。 不意にそんな音が鳴り響き、誰かが階段を上がって屋上へとやってきた。 「……佳代か。」 少年に呼ばれたのは女の子。 名を佳代と言い、川田亮佑の親友の妹。 「やっぱりここにいたんだ……お兄ちゃん。」 佳代の兄――…流兜は、ただじっと、眩しい朝日を眺めていた。
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