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赤いS15と白いキャリィがスタート地点に並ぶ。
巴は窓越しに哲雄を睨みつける。
哲雄は(やれやれ…)と心の中でつぶやきながら、首を回す。
スターターを勤める丸岡が白いセンターライン上に立つ。
「Start!YourEngine!!」
カッコつけて英語でエンジン始動を指示する。
だが「とっくにエンジン掛かっとるわ!!」
「ふざけてないで速くカウントしなさいよ!!」
「そーだそーだ」
と四方八方からブーイングを受けて、風太郎のテンションが下がる。
「…カウント行くぞ」
風太郎は両手を上げる。
二台のマフラーから排気ガスとエキゾーストノイズが噴き出す。
普通なら、人間に害がある二酸化炭素や燃え残ったガソリン等が混じったガスに鼓膜を痛み付けるような騒音は嫌われる存在。
だが、この山にいる走り屋達には、どんな香水よりもいい匂いに、どんなロックよりもハードでアナーキーなBGMに変わる。
時折、キャリィのマフラーが炎に包まれる。
マフラーに貯まった未燃焼ガスがエンジンから排出された熱い排気ガスに引火し、マフラーから勢いよく火が吹き出る「アフターファイア」を起こした。
「おお!?バックファイア!スゲー」
「マジ半端ねぇよ!」
と、どよめく走り屋気取りのナンパな男達。
(アメ村帰れ!ボケ!)
走り屋達が一心同体にそう呟く。
話しは戻り、普通なら軽トラのキャリィがアフターファイアを起こすことは無い。
それが、勢いよく火を吹き出すと言うことは、かなりの出力を叩き出している証である。
(結構、出力はあるみたいね。けど、軽じゃせいぜい120馬力が限度。こっちは350馬力。負ける理由が無いわ)
「5秒前!」
アクセルを踏み、タコメータのベゼル(針)が勢いよく回る。
「4!」
哲雄の親指が折れる。
双方のブーストメーターのベゼルは共に1.5kPaを指す。
「3」
小指が折れる。
水温、油温、油圧は問題無し。
「2!」
薬指も折れた。
ピストンは人間の目で追い付かない程の速度で上下し、超高速回転するカムに押されたバルブが濃いめの混合気をシリンダーへ送り込む。
「1!」
中指を折り、残るは人差し指一本のみ。
ギアをニュートラルから一速へ変え、サイドブレーキに手を掛ける。
「GOッ!!」
双方、哲雄の両手が振り下されたのを確認し、サイドブレーキを下ろす。
二台の鉄の馬の後輪にウン千回転のエンジンの力が伝わり、タイヤから白煙が噴き上がり、二人のバトルの火ぶたが切られた。
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