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深夜の山は驚くほどに静かだ。
フクロウに鈴虫といった動物や虫達の鳴き声に、近くを流れる川のせせらぎ。
山あいを縫うように敷かれた道路には通り掛かるクルマもなく、ただただ静かな空気が流れていた。
その静寂を破るように二つの爆音が響き渡る。
一つは、遠くからでも判別できる程に鮮やかな赤色、重低音を響かせる大口径マフラー、路面に描かれたセンターラインが写り込む程にまばゆいアルミのメッシュホイールを取り付けたリトラクタブルヘッドライトのハッチバック形状のクルマ。
日産 180SX 後期型だ。
ノーマルで205PSを絞り出すSR20DETTエンジンは吸排気系やコンピューター、タービン交換を施し、約300PSを叩き出すエンジンに仕上がってりいる。
その180SXのステアリングを握るドライバーはアクセルを踏み込み後ろから追ってくる、もう一台のクルマから逃げ切ろうとしていた。
バックミラーに写るクルマはHIDヘッドライトのまばゆい光のせいで車体までは判別できない。
しかし、300PSの180SXと互角に競うだけの出力は備えているだろう。
180SXのドライバーが、そんな事を考えていると、目の前に右コーナーが迫って来ていた。
コーナー手前からブレーキペダルを踏み込み、車体後方の荷重が小さくなり、ステアリングを右に切る。
すると簡単にテールスライドが起こり、ある程度、角度が付くとドライバーは反対側にステアリングを切る。
目の前にはガードレールと木々が左から右へと流れる。
後輪からは白煙が濛々と出る。
コーナーの出口間近で180SXは横滑りから体制を立て直し、再び加速していく。
180SXのドライバーがしたのは、今や知らない人が少ないと言われるドラテクの花形「ドリフト」
その中の一つのテクニック「ブレーキングドリフト」だ。
見事にドリフトが決まり心境は疎か顔までもが優越感に染まるドライバー。
ふとバックミラーを見つめる。
先程のコーナーで差が開き、小さな光が点していると思っているドライバー。
しかし、予想は大いに外れた。
光は小さくなるどころか大きくなり、光だけではなく車体までもがハッキリと映り込んでいた。
やけに高い車高に真四角の純白のボディ。
純正品から変更されたフロントバンパー。
峠には似つかわしくないスタイルを持つ、そのクルマの正体。
スズキ DA52T キャリィ
所謂、軽トラと呼ばれるクルマだった。
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