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西浦哲雄の仕事始めは早い。
道頓堀に掛かる戎橋の南側にある十字路にキャリィを停める。
直ぐさま運転席から降り、荷台に設置したビニール幌を上げ、アオリを展開、積載していたプロパンガスのボンベを降ろし、業務用のタコ焼き機とボンベとをホースで繋ぐ。
仕上げに「タコ焼き てつお」と書かれた提灯を吊し、同じ文字が書かれたエプロンを着けて、タコ焼き屋台の営業を始める。
営業開始から三分。彼の店に客が大量に押し寄せてくる。
哲雄の焼くタコ焼きは大阪一とトラベル誌やテレビでも話題で、土・日・祝日・春・夏・冬休み・年末年始は疎か、平日でも梅田で営業すれば、たちまち行列が出来てしまう程だ。
朝・昼・晩と飯を食う暇もなく、ひたすらタコ焼きを焼き続ける。
そして、午後9時。
この頃になると、ほとんどお客も来なくなり、ようやく一息つける時間が訪れる。
今日も余った材料の消費兼夕食の適当焼き(哲雄命名、タコ以外にも行きしなに100均コンビニで買ったニラ、ソーセージ、人参等をタコ焼きの要領で焼いた物。非売品)を口に放り込んでいく。
「あ~、暇や…」
そう呟いていると、エプロンのポケットに入れた携帯電話が震え出す。
取り出し、ディスプレイに表示された「丸岡」の文字を確認した後、電話に出る。
「もしもし?」
「あ、もしもし?丸岡やけど西浦?」
「いちいち確認せんでええやろ」
「いや、昨日、登録ミスって別の人に掛けてしもたから」
「なんでミスるねん?…んで本題は?」
「あぁ、そやったな。今日は土曜やろ?サタデーナイトフィーバーってな訳で、走りに行かんか?」
「何がサタデーナイトフィーバーや?ネタが古すぎるわ。てかいくつやお前!?」
「丸岡風太郎17歳です(ハート)」
「気持ち悪ッ!。今年21やろが?何が17歳です(ハート)や?アニヲタ全開は引かれるぞ」
「んだよ、ノリ悪いなぁ…んで行くんか?」
「拒否ったら、うるせーから一旦戻ってパーツ変えてから行く」
「おう、んじゃ後でお前ん家でな」
「へいへい…」
ローテンション気味で電話を切り、適当焼きを胃袋へ掻き込むと提灯をしまい、タコ焼き機から外してあったガスボンベを載せ、アオリを閉じ、幌を下げる。
運転席に座り、ポケットに入れていたスズキのキーホルダーを取り出し、キャリィのキーを差し込む。
二度ほど、エンジンを煽り人気の少なくなった戎橋界隈を摺り抜け、法定速度厳守で地元 豊中市へ戻る。
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