となりのさいとう

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やぁ 俺さいとう みんなは カンタ って呼んでるんだけどね 俺さいとう カンタって誰だよ ちくしょう! 今俺はばあちゃんと二人で暮らしている 若い頃に親は離婚し すこし前までは母さん、俺、そしてばあちゃんの三人で過ごしていた 母さんはばあちゃんの力を借りながらも 女手ひとつで俺を育ててくれた 毎日毎日 朝から晩まで働いていた 母さんがいない間は ばあちゃんが俺の面倒を見てくれていた 俺はよく悪さをしては ばあちゃんに叱られていた でも 口ベタな俺にとっては 叱られることが大事なコミュニケーションの機会になっていた ばあちゃんもそんな俺の心境を知っていたんだと思う 俺を叱った後は よく俺を誘って 一緒に畑仕事をした そんなある日 母さんが死んだ 過労だった。 ばあちゃんは 自分が母さんに負担をかけさせたせいだと思っていた 母さんの死後 ばあちゃんはよく「自分がもっと働けたら…」というようなことを話していた ばあちゃんは次第にふさぎ込み 家では何もしゃべらず ただ座って庭を見つめる毎日が続いた 俺はばあちゃんにどう話しかければいいのかわからなかった そんな日々が少し続き 近くの家にだれかが引っ越してきた ばあちゃんは 余所ではいつもどおりの元気なばあちゃんだった 面倒見のいい 優しいばあちゃんだった でも 家に帰ると また何か思いつめたような顔を庭に向けるだけだった 俺は何もできない自分が腹立たしかった このときばかりは 何を話しかけたらいいかわからない口ベタな自分を恨んだ でも その時気づいたんだ 口の回らない俺は いつも悪さをして、そうやってばあちゃんとコミュニケーションをとっていたんだった ばあちゃんはまた 俺を叱ってくれるだろうか また二人で畑仕事ができるだろうか わからない 今のばあちゃんを見ると 昔のばあちゃんの姿が嘘のように思えてくる でも 俺は 俺とばあちゃんの繋がりを信じたかった 次の日 おれはあの家の前にいた サツキとかいうやつが 訝しげにこちらを見ている 「おまえん家ー、おっばけやーしきー!!!」 俺の耳には 確かに聞こえた 俺を叱る いつものばあちゃんの声が
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