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――放課後になるまで、俺はただの一言も姫子と口を聞かなかった。
「ねぇ……ねぇったら? あー、あー、只今マイクのテスト中。……ねぇ、幸成。私今日、どんな下着履いてると思う? ねぇ……ねぇったら?」
あぁ、うざいうざい! 俺の周りをうろちょろすんな! 姫子の下着? 黒だろ、くーろ! さっきお前が階段を上ってる時、ちらっと見えたんだよ! あくまでちらっとだぞ! という目で睨みつけ、姫子をたじろがせる俺。
その後も、何度となく姫子は俺とのコミュニケーションを試みたが、昼休みにとうとう諦めた。
ふぅ、やっと諦めてくれたか。午後の眠たい授業中、俺は斜め前に座る姫子を見つめながら、シャーペンをカチカチと鳴らし続けた。
……我ながら情けない。神谷先輩は間違いなく姫子に告白をする。俺の第六感がそう言っている。だから、その前にはっきりと言えばいいんだ。
『先輩となんか会うな』って。
『姫子の事が好きだ』って。
それなのに、素直になれない自分に腹が立って、姫子に八つ当たりして――。
『お前、馬鹿だろ?』
ついさっき康介が言った言葉が、不意に頭をよぎる。
あー馬鹿だ、ほんまもんの馬鹿ですよ俺は。
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