アレってなに? うまいもん?

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  「――えー、石田。おい石田。今の問題聞いていたか? 答えろ石田。おい石田!」  考え事をしている間に、教師が俺とコミュニケーションを図ろうとしていたらしい。クラス中の視線を浴びた事で、ようやく気が付いた。  まずった。頭ん中姫子の事でいっぱいで、今が英語の授業って事以外何も分からない。  そういえば、保健の授業もまともに聞いていなかった。  結局、アレってなんだったんだ? 姫子と康介は、いつになく真面目に授業を受けていたけど。 「答えないか石田」  聞いてなかったんだろ? とでも言いたげな冷たい眼差しで、五十代独身男性の、通称アトム先生が俺に問う。  寝癖なのかポリシーなのか分からないが、髪型が鉄腕アトムみたいだからアトム先生。 「あー、えーと……」  こういう時は、聞いてませんでしたって素直に謝るのがベストだが、いかんせん今の俺は誰にも頭を下げる気分じゃない。  シャーペンをカチカチ鳴らしながら、俺は声を高らかに「ディスイズ――アペーン!!」とやけくそに叫んだ。  クラス中が大爆笑。  アトム先生も、手を口に当てて「くくっ」と不気味に笑っている。 「イエスイエス。正解でいいよ、石田。……くくくっ」  アトム先生のやや高い声に軽く引きながら、俺は椅子に座る。  ――座った瞬間、姫子と目が合った。  ひどく寂しげな、らしからぬ笑みを見せて、姫子はすぐに前を向いた。  胸がチクチクと痛む。  
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