2009人が本棚に入れています
本棚に追加
「――えー、石田。おい石田。今の問題聞いていたか? 答えろ石田。おい石田!」
考え事をしている間に、教師が俺とコミュニケーションを図ろうとしていたらしい。クラス中の視線を浴びた事で、ようやく気が付いた。
まずった。頭ん中姫子の事でいっぱいで、今が英語の授業って事以外何も分からない。
そういえば、保健の授業もまともに聞いていなかった。
結局、アレってなんだったんだ? 姫子と康介は、いつになく真面目に授業を受けていたけど。
「答えないか石田」
聞いてなかったんだろ? とでも言いたげな冷たい眼差しで、五十代独身男性の、通称アトム先生が俺に問う。
寝癖なのかポリシーなのか分からないが、髪型が鉄腕アトムみたいだからアトム先生。
「あー、えーと……」
こういう時は、聞いてませんでしたって素直に謝るのがベストだが、いかんせん今の俺は誰にも頭を下げる気分じゃない。
シャーペンをカチカチ鳴らしながら、俺は声を高らかに「ディスイズ――アペーン!!」とやけくそに叫んだ。
クラス中が大爆笑。
アトム先生も、手を口に当てて「くくっ」と不気味に笑っている。
「イエスイエス。正解でいいよ、石田。……くくくっ」
アトム先生のやや高い声に軽く引きながら、俺は椅子に座る。
――座った瞬間、姫子と目が合った。
ひどく寂しげな、らしからぬ笑みを見せて、姫子はすぐに前を向いた。
胸がチクチクと痛む。
最初のコメントを投稿しよう!