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「不快だ、実に不快だ。噂話はやめてくれないか?」
クレームも何のその、二人はケタケタと笑う。
そして声を揃えて、「噂話は女の栄養源よ」と言った。
はぁ、何のこっちゃ。
俺が両手で大袈裟に万歳をすると、姫子は元々垂れ気味な目尻を更に下げて、何とも可愛らしいえくぼを作った。
「おはよう幸成」
「おはよう姫子」
玄関に座って靴を履き、よいしょと一声立ち上がる。すると姫子は、腹を抱えて盛大に笑いだした。
「ぷっ、よいしょだって。おっさん……いや、じいさんすか? インポすか?」
お前、朝からお下品な! 俺がそう言おうと思った瞬間――母ちゃんが姫子の頭を、フライパンの裏側でゴチンと叩いた。
「あいてて」と頭を押さえて屈む姫子を、真面目な顔で見下ろす母ちゃん。
「姫ちゃん! 女の子がそんな下品な事言っちゃだめでしょ!」
「うぅ……ごめんおばさん。ついつい」
こんな光景を、今まで何度見てきた事か。俺は半ば飽きれ気味に、二人を交互に見た。
「母ちゃん行ってきます。ほら姫子、立てよ」
手を差し延べると、姫子は嬉しそうに笑みを浮かべ、「うん」と手を握った。
彼女の細くて白い手は、幼少期から変わらず、いつもほのかに温かい。
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