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「そうか…。」
俺はもうジタバタ足掻くより現実を見据える事にした。小説の中でしかない世界に妙な感動と興奮を覚えていた。
ここは…俺が高一の頃の世界なんだ。
「じゃあ…行ってきます。」
高校一年生の頃の俺は、軽音楽部に所属していた。ギターを担いで自転車にまたがり、学校に通っていた。
間違いなく、俺が経験した世界。二度目の高校生活。
担任の平泉教諭はまだ30歳の若い女性だ。
こう見ると、先生可愛いな。
21歳の頭が無駄な妄想を掻き立てる。
この日は、覚えてる。
確か、夏休み前に、部活外でもバンドを組もうって話になってて別のクラスの井上とミーティングする日だ。
「よう、智。久しぶりだな!」
『あぁ、イッシー久しぶり。』
仲の良いコイツは同じ軽音楽部の井上 智(いのうえ さとる)。バンドこそ一緒には組んでいなかったが腕利きのドラマーだ。
俺からすれば本当に久しぶりの再会だ。智はこの翌年、自主退学して学校からいなくなる。本格的に音楽活動をすると言っていなくなってから消息が絶えた。
「どうだ、夏休み中に一緒にやってくれる仲間探し集めてくれたんだろ?」
白々しく全く何も知らない振りをする俺。
『あぁ、ボーカルやりたいって女の子がいてね、今日一応来てもらったよ。』
智の後ろから女の子が顔を出す。
『こんにちはー。齋藤 由香里(さいとう ゆかり)です。よろしくね。』
「おー!ボーカル熱いじゃん!齋藤さんか、よろしくな。俺は石田 優一(いしだ ゆういち)。一応ギターやってます。」
懐かしいな、由香里。女子ソフトテニス部に入ってて、明るくて頭が良くて。俺がソフトテニス部の前を通る度に由香里は『イッシーっ!!』って叫んでたよな。
俺は扱いづらくて何とも難しい女だと思ってたよ。今にしてみればいい思い出だけどさ。
『それで、石田くん?ベースじゃあなくて、キーボードなんだけど、やりたいって子がいるんだけど、明日連れてきても良いかな?』
「ん、あぁ、もちろん!」
俺の胸は高鳴りっぱなしだった。
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