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高校一年生の9月2日。
忘れようにも忘れられない日。
俺は何もかも知っていながら学校に足を運んだ。そして、運命の放課後が近付いてきた。
『イッシー、そろそろ由香里来るってー。』
「知ってるー、ってか超眠い。もぉ俺化学無理。」
相変わらず周りの人物は俺の変化に全く気付いていない。そのように振る舞っているのだから当然なのだが。
『お、きたー。』
俺は誰が来るのか知っていた。俺とどうなるのかも知っていた。
最終的な結末も。
『あ、えっと安岡 綾子(やすおか あやこ)です。よろしく。』
紛れもない、あの頃の綾子だった。
俺は、言葉に詰まった。
とにかく泣きそうだった。もう一度会えた、「ゴメン」のたった一言が言えなかった、俺のせいで傷付けてしまった大切な人に。
「…安岡さん?」
『あ、綾子。彼がギターの石田くん。智はもう話したから知ってるでしょ?』
由香里が仲介して紹介する。
俺は今、自分が何をすべきか全く分からなかった。何も知らない綾子の前でどう振る舞おうか、ずっと考えていたのに。綾子が目の前にきたら頭が真っ白になった。
最初、俺は何をしたっけ。
連絡先を聞いたか?
それともバンドのミーティングに集中してたか?
あぁ、もう何も思い出せない。
とりあえず出来る限り平静を装うしかない。
『イッシー、どうしたの?』
気の優しい智が俺に問いかける。
「や、ゴメン。昨日あんま寝てねーから眠くて。」
『ここでボーっとしててもしょうがないからさ、お湯の水に言って何か楽譜探しに行こうよ。』
「あぁ、そうだな…。行くか!」
そうだ、この日初めて会った綾子と、智と由香里と一緒に楽譜を探しに行ったんだ。
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