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(な、なんだよ……これ)
言葉が出ないとはこの事だ。
都心に住んでいた俺の家の前には沢山の一軒家、その後ろには所狭しと言った具合にビルが並んでいた筈だった。
その見慣れた景色が跡形もない。視界の隅々に在るのは瓦礫の山だった。
愕然と立ち尽くす俺に休む暇はなかった。後ろから何かが崩れる様な音が聞こえた後、低い低い雄叫びが聞こえた。
後ろを振り返ると先程の悪魔がいた。口から垂れる長い舌から涎が落ちると下の瓦礫が溶けはじめた。
(嘘だろ……)
次第に夢であることを祈り始めた俺がいた。現実逃避をするのはいいが目の前の奴はそうはさせてくれないらしい。
奴は思い切り手と足を必死に動かして俺に噛み付いてきた。
「くっ!」
痛む足に鞭をふり思い切り地を蹴る。なんとか避けきったが踏ん張る際に足をくじいてしまったらしい。そう長くは避けれそうにない。
「ああ……ああ……ああ」
奴が上を向き、呻き声を上げ始めた。
チャンスだ。そう思い俺は足を引きずりながら後ろへ下がって行く。
暫く後ずさりしていると背中が何かに当たった。
俺は奴に集中しながらも後ろを見た。
「うああああああ……」
悪魔の呻き声での合奏が俺の耳を刺激する。
嗚呼、頭が痛い。これが夢じゃないならば、どうやら俺は神に見離された様だ。
俺が見たのは視界一杯の悪魔だった。
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