空に近く

終わりの時間

死へのカウントダウンは、
やたらとゆっくりに感じる。

私は今から飛び降りる。

飛び立つと言った方が
綺麗に聞こえるかな。

そう、私は巣立ちを迎える
ツバメのヒナ。

スズメでもいいけど。

もっと素敵な鳥が良いけど、
私、鳥の種類なんか
そんなに知らないや。

知らないことなんて、
まだまだあるんだけど、ね。

最期の時間はのんびり
過ごそうって決めてた。

だから私は今
屋上に寝転がって
夜空を見上げている。

都会の夜空には
ほとんど星なんか
見えやしないけど、

運良く今日は月が
すごく綺麗に光っている。

わざわざ満月の夜を
選んだ甲斐があった。

ここら一帯でいちばん高い
このビルの屋上では
月に手も届きそうだ。

私は終始穏やかな気持ちで
いるように心掛ける。

もう見れない月を眺めながら、
今までの人生を、
楽しかった悲しかった思い出を
ひとつひとつ吟味する。

もうたくさんだ、
と思った。

良い意味でも、
悪い意味でも、

もうたくさんだ、と。

現在、23時30分。