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夏休みが明けてから、バイトのせいで一緒に帰ることができなかった。シフトの組換えでようやく部活帰りの遠藤幸春(えんどうゆきはる)を迎えにいくことができたのだ。
バイト先から学校に戻り、体育館と併設している弓道場に向かう。
その入口で話し込む人影を見て、東間圭吾(あずまけいご)は足を止めた。
幸春と話しをしている女生徒。同じクラスでもなく、圭吾には見覚えがなかった。
幸春は圭吾に気付かない。彼の前で笑うその子は、長い髪を二つに束ね、胸に抱えるように何かを持っている。
圭吾に気付いたのは、後から出てきた弓道部員たちだった。
肩を叩かれ、幸春がようやく顔を向ける。
「圭吾」
名前を呼ばれて、幸春が笑う。
圭吾は動かせなかった足をやっと進め、幸春の傍まで歩いていく。
笑っていた彼女は、大きな目を瞬かせて圭吾を見上げてきた。
圭吾は彼女を見ようともせず、部員たちにだけ会釈をして、幸春の腕を掴んだ。それから幸春の腕を引っ張って、校門に向かって歩き始める。
「お、おい! ちょっと待てよ」
幸春が抗議の声を上げるが、圭吾は構わずに突き進む。
幸春が何度も後ろに振り向いているようで、圭吾はそれを感じるたびに、握る手に力をこめた。
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