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「圭吾は、そういうの得意なのか?」
「得意なのかって、知らないんすか? あの人、自作パソコンとか使ってるはずですよ」
心底驚いたように瞬く大樹に、幸春は逡巡と頷いた。
圭吾が幸春の前でパソコンの話をしたことはない。よくよく思い返してみれば、圭吾はあまり自分の事を語らない。いつも聞き手に回っているような気がした。
「……そうか。知らなかったな」
呟いた声音は、どこか卑屈に聞こえて、幸春は軽く頭を振った。
もし圭吾がパソコンの話などしても、自分に理解できないことはわかっている。理解できる者と話しがしたいという気持ちも分かる。
それでも、「何も知らない」のだと思い知らされたようで、幸春は知らず口を一文字に結んだ。
「実は俺もパソコン好きで、偶々その手の店で会ったことがあるんすよ」
聞こえてきた声に、幸春ははっと顔を上げた。少し困ったように笑う大樹に、幸春は微苦笑を浮かべる。
「悪い」そう囁くように言って、幸春は改めて大樹を見つめた。
「なんか、意外な繋がりだな。パソコンを自分で作るなんて信じられねえ」
「今はそんな難しくないっすよ? もうパーツはあるんで、それを組み立ててくだけ。パズルみたいなもんすよ」
「パズルねえ」
家が見えてきたところで、門前に人影を見つける。幸春は誰だろうと目を凝らし、次いで僅かに瞠目した。
「ユキちゃんおっかえりー!」
門前に立っていたのは、まだバイト途中であるはずの圭吾だ。彼は楽しげな声を上げて、こちら駆け寄ってくる。
傍にくるなりがしっと抱きしめられ、抵抗する間もなく肩を鷲掴みされて家の方に引っ張られていく。
「置いてかないでくださいよ」
笑い声を含んだ大樹の声がして、圭吾が顔だけで振り返っている。
「うそつき」
「ひどいなあ。ちゃんと知らせたでしょ?」
後ろを歩いてくる大樹をねめつけ、圭吾が頭を抱きこんでくる。
「付いて来ないでよ」
「俺は遠藤さんに呼ばれたんすよ?」
「もうユキちゃん、なんで幸田なんて呼ぶの」
急に圭吾の整った顔が間近に迫り、幸春は咄嗟に、その顔面を手で抑えていた。
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