泣いて泣いて泣いて

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 右耳が取れかかったうさぎのぬいぐるみ。母から与えられたおもちゃはそれだけだった。  うさぎの腕を掴んで、暗い部屋で立ち尽くした。 「だから子供なんていらなかったのよ」  吐き出されたような言葉は、そこに憎しみすら感じた。  縋りつくことも、傍に近寄ることすら許してはもらえなかった。突き飛ばされて泣き声を上げるたびに、深く嘆息して、母は何度も同じ言葉を繰り返す。  笑っていれば、せめて笑っていれば、貴女のその言葉を聞くことはないのだろうか。 「圭吾」  名前を呼んでくれる父も、抱きしめてはくれない。ひどく哀しそうな目をして、見つめてくるだけ。 「母さんは仕事で疲れてるんだ。お前はいい子だから、わかってくれるだろう?」  父はいつも、母の味方だから。頷けば、大きな手が頭を撫でてくれる。 「だから外で、母さんを悪く言っちゃダメだぞ?」  父に何度も頷いてみせる。噂が広がるたびに、母は責めるから。泣くから。 「僕はいつも笑ってるよ?」  いつでも笑ってる。もう泣くこともない。――それなのに。それなのに。
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