泣いて泣いて泣いて

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「――いご、圭吾。おい、圭吾」  名前を呼ばれて、薄っすらと目を開ける。誰の声だっただろうかと考えて、東間圭吾(あずまけいご)は大きく瞠目する。  突っ伏していた頭を上げ、心配そうに顔を覗き込んでくる遠藤幸春(えんどうゆきはる)に笑顔を向ける。 「ごめん。寝ちゃってた?」  向かいに座る幸春は微苦笑して、小さく頷いて見せた。腕が伸びて、頬骨に指が触れる。 「汗がすげえ。顔洗ってこいよ」  幸春が触れたのは、汗ではなかっただろうに。  圭吾はやはり笑って、素直に立ち上がった。  幸春の部屋を出て、階段を下りる。洗面所を勝手に借りて、冷たい水で顔を洗った。――冷え切っている体のせいなのか、濡れた指先は微かに震えている。  その手を強く握り、おもいきり伸ばす。何度か繰り返せば、震えはすぐに治まった。 「まいったなあ」  名前を呼ばれて、肩を揺すられた。顔を上げたときに見えた、幸春の心配そうな表情を思い出して、圭吾は深々と嘆息する。  余程のうなされ方をしていたのだろうか。  子供の頃の夢を見ること自体は慣れている。それがよりにもよって幸春の部屋、彼が目の前にいるときというのは今までなかったことだ。――しかも、涙まで流していたようだ。  いつまでも部屋に戻らなければ、殊更心配をかけてしまう。圭吾はもう一度顔を洗うと、静かに階段を上がっていく。  障子を開ければ、幸春が顔を上げて笑った。 「おせえ。残ってんのはほとんどお前の課題だってことわかってるか?」 「わかってるよう。ユキちゃんが手伝ってくれなかったら、俺は二学期を迎えられません」 「わかってるならさっさと進めろ」  圭吾は軽く笑い声を上げて腰を下ろす。
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