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長いと思っていた夏休みも、あと五日で終わってしまう。どこかへ出かけようと思っても、幸春は常に道場か部活で、圭吾もバイトに明け暮れていた。
それでもほとんど毎日のように顔は合わせていたのだが。
「やっぱり寂しいなあ」
「なにが」
「だってユキちゃんとどこにも出かけてない。海とかさー、せめてプール」
「アパート借りる資金ためてるんだろ? 無駄遣いしてたらたまらねえぞ」
「ユキちゃんとのお出かけは無駄遣いじゃないよう」
子供のように拗ねた声を出せば、幸春は困ったように微苦笑する。
シャープペンの頭でこめかみをかきながら、幸春が小さく嘆息した。
「俺がないんだよ」
「ないって」
「遊びに行く金」
出すと言っても、貸すと言っても、幸春は納得しないだろう。圭吾は眉をハの字に下げて、がっくりと肩を落とした。
「ユキちゃんてば、月々にお小遣いとかもらってるんでしょ? お年玉だって、全然使ってる様子無いのに」
「俺もためてんだよ」
「なんで? なにか買うの?」
聞いた瞬間に、額にシャープペンの頭が突きつけられた。いきなりのことと軽い衝撃に、何度も瞬いて、涙目になって目の前の幸春を見据えた。――心なしか、眉間に皺が寄り、怒っているように見える。
「……あれ? もしかして俺、知ってる?」
「お前が言ったんだろ」
「俺? え? え? 俺、なにか言った?」
幸春がお金を貯めている理由。圭吾は記憶をできる限り手繰ってみるが、一向に思い当たらない。
悩めば悩むほど幸春の眉間の皺は深くなり、顔を逸らさない彼が、いよいよ俯いて課題を始めてしまった。
「もしかして俺も関係してる? 教えてようう」
涙声で、幸春の左手を握って訴えてみる。不機嫌な視線が向けられ、離しそうになる手をなんとか堪えた。
負けずに幸春を見据え返していれば、不意に彼の口元が緩んだ。
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