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「絵を、描かせて欲しいんです」
夏休みの部活中、顧問が連れてきた美術部の女の子。彼女はスケッチブックを胸に抱えるように持ち、少しはにかんだように笑った。
長い黒髪を左右で結び、大きな瞳を瞬かせて笑う。彼女は控えめな声で、「よろしくお願いします」と頭を下げた。
遠藤幸春(えんどうゆきはる)は彼女に笑顔で会釈され、慌ててそれに倣った。
「其田(そのだ)です。よろしくね、遠藤君」
「あ、はい」
「同級生なんだから、そんなに畏まらないでよ」
其田の言葉に、幸春はただ苦笑する。正直、クラスメート以外の同級生、特に女生徒に至ってはほとんど覚えていない。
女子部員たちと談笑に入り、幸春は安堵したように息をつき、早々に彼女から離れていった。
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