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彼女はその日から毎日のように弓道場に顔を出し、道場の片隅でスケッチブックを開いていた。
二学期が始まる頃には、幸春も、彼女と話すことが多くなっていた。
「遠藤君たちって有名なのよ」
「俺たち?」
「そう。遠藤君と東間君」
幼馴染の東間圭吾(あずまけいご)と一括りにされるのは慣れているが、有名というのはどういうことだろうと、幸春は首をかしげた。
其田は小さく笑いながら、頷いてみせる。
「二人ともいつも一緒だし、すごく目立ってるって知ってた?」
幸春が首を振ると、「やっぱり」と彼女は可笑しそうに声を上げた。
「遠藤はさ、そういうの全然鈍いから」
女子部員に囃され、幸春は苦笑する。自分の鈍さはほとほと身にしみているから、それについては反論する余地がない。
人の機微に聡い圭吾を何度羨んだか知れない。
「そういえば、片割れ最近見ないね」
「ああ、バイトが忙しいらしい」
片割れ。部員達は、圭吾のことをそう呼ぶ。幸春もそれに慣らされてしまった。
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