誰?

4/8
前へ
/110ページ
次へ
 二学期に入ってから、圭吾はバイトに追われ、弓道場まで迎えに来ることがなかった。  シフト替えを要請中だと言っていたのは、つい二日前のことだ。夏休み中は一人での登下校が当たり前だったから、幸春は特にそれを気にしてもいなかった。 「ねえ、遠藤君」  帰ろうとしていた幸春は、其田の声に振り返った。相変わらずスケッチブックを抱えるようにもち、彼女ははにかんだような笑みを浮かべている。 「そろそろね、下書きも終わりそうなんだ」  秋にある学生コンペに出す絵だと聞いた。幸春は笑みを浮かべ、頷く。 「あのね、それでみんなにお礼がしたくて」 「そんなの気にしなくて良いよ。絵の完成、みんな楽しみにしてるからさ」 「ありがとう。……だけどやっぱり、なんだか悪いなあ」  後から出てきた部員に肩を叩かれ、幸春は顔を上げる。彼らが指差した方向に視線をやると、夕暮れの中で、圭吾が立ち尽くしているのが見えた。 「圭吾?」  名前を呼べば、彼は瞬き、駆けるように寄ってくる。部員達と軽い挨拶を交わし、いきなり腕を掴むと、圭吾は有無も言わさず歩き始めた。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加