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幸春は足を止め、暫し圭吾を眺めた。縋りつくような目。下がった眉。今にも泣き出してしまいそうな圭吾の表情に、幸春は苦笑して、彼の頭を乱暴にかき回した。
「明日、先輩達に会ったら謝っとけよ?」
そう言えば、圭吾は破顔一笑する。それに幸春も笑み、再び歩き始める。
暫く黙って歩いていた圭吾が、笑みを浮かべながら前に進み出る。
「さっき話してた子、誰? 見たこと無かったけど」
「さっき? ――ああ、其田さんのことか?」
「そのだ? おんなじクラスじゃないよね? なんで一緒にいたの?」
圭吾は笑みを浮かばながら、答える暇もなく質問を投げかけてくる。
その笑みに些か不自然さを感じて、「美術部らしいけど」と答えながら、幸春は首をかしげる。
途端に、笑みの不自然さが色濃くなった。
「なんで美術部の子が弓道部にいるのさ」
「いや、なんか……」
何故か答えに迷っていれば、圭吾が両肩を掴んできた。
眼前に、圭吾の笑みが迫る。
「告白されたとか」
「飛躍し過ぎだ! 絵を描かせて欲しいって頼まれたんだよ!」
咄嗟に返した声がいつもより響いて、幸春はばつの悪さに口元を抑える。
血まで頭に上っているようで、微かに顔が熱いようにも感じた。
もしかしたら、赤くなっているのかもしれない。「ふーん」と顔を覗き込んでくる圭吾を、思わず睨むように見据えてしまった。
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