第1章 お父さん

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私が9歳になる日。 一週間に一度の外出(仮退院)でお父さんが帰ってきた。 ふと、お父さんが 『さくら、オルガンで"麦と兵隊"を弾いてほしいな。お父さんの為に。』 お父さんの大好きな歌。 元軍人のお父さん。 そんなお父さんの背中には、子供の私でも『かっこいい』と思う弾痕があった。 お父さんは目を瞑りながら、そこまで上手くない私の奏でる音色を聞いてくれた。 それは、2月にしては暖かい日の事だった。 そしてそれは、お父さんが生きて家に帰ってきた最後の日でもあった。
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