第一章 もう一人の騎士

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「旬さん旬さん、朝ですよ」  可愛らしい声が旬の聴覚をくすぐり、ベッドの上で横たわる体は優しく揺さぶられていた。 「ふふー、旬さーん朝ですよー」  恋人同士が迎えた……というには初々しさがあり、例えるならば隣に住む幼なじみが起こしに来たシチュエーションだろう。といっても、そんな展開はギャルゲーでしか発生しないはずである。  だがしかし、少女に起こしに来てもらったにもかかわらず、今もベッドの上で眠る少年-小倉旬は、異世界に来てしまうという一番有り得ない不幸体験をしているわけで、そんな事が起こり得るならば、リアルに可愛い幼なじみが起こしに来てくれるイベントを、体験した事のある人がいる可能性があってもおかしくない。  そんな可愛い幼なじみの話はさて置き、甲斐甲斐しく起こしに来た少女ことセシリーは、旬の彼女でもなければ幼なじみでもない。 ならばなぜ起こしに来たのか? そんな事を書くのは野暮というものなのだが、セシリーは只今絶賛片恋中なのだ。  相手はもちろん旬である。 昨夜に旬が酒場ジャン・ズーに帰って来て以来、ずっとデレっぱなしである。  別に普段ツンツンしている訳でもなく、両親を早くに亡くした彼女は、簡単に言えば愛に飢えているのだろう。
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