54495人が本棚に入れています
本棚に追加
/565ページ
正直に言ってしまうと、旬はこの酔っ払いを放っておいて、とっとと帰りたいのだが、帰る家を思い浮かべるとそうも言ってられない。
今必要なのはとにかく金なのだ。それを手に入れる為には仕事が必要になり、その仕事をもらう為にはこの酔っ払いをどうにかしなければならない。
「辞めた……ですか。正確にはあなたの中で辞めた事になっていて、実際はそうじゃない。じゃなければ人事であなたの名前が出るわけがない」
「……お前は小隊に入りたいのか」
「ええまあ、そうなります。お金が必要なので」
男は何かを考えるようにグラスを掴むと、中の氷をカラカラとぶつかるように小さく揺らす。
「……そうか、なら仕方ないな」
男のその言葉を聞き、旬は心の中でガッツポーズをする。
「じゃあまずは、頭数を揃えてから来なルーキー」
「は?」
「小隊なんだろ? あいにく俺とお前じゃ小隊にもならん。最低でも四人集めるんだな。そしたら……考えてやらんでもない」
男はそう言い終わると鼻で笑い、再び酒を口にする。
言葉にはしてないが『お前には無理だ』というメッセージがひしひしと旬に伝わる。
「……集めたらいいんですね?」
「ん、まだいたのか……まあ、そういう事だ。ただ、その辺の犬や猫じゃ駄目だからな」
ムダに良い声で笑う男を無視すると、旬は酒場を出て行った。
最初のコメントを投稿しよう!