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周りからの視線を感じながらも、旬はそれを無視する。
「アリアスさん、この後ってお時間頂けますか?」
旬の発したその言葉で、食堂の空気が凍った。
そして周りはひそひそと話しだす。
「どこの誰だかは知らないが、また無茶をする」
「僕でも駄目だったから、断られるのが目に見えてるよ」
「というか、バルキリーは鉄壁と言う言葉を知らないな。これだから新人は困る」
などと他にも哀れみや、旬の行動を馬鹿にする会話があり、結果が見えているからか注目度が一気に下がり、各々は食事を再開し始めた。
その時、アリアスはナプキンで口元を拭うと、グラスの水を一口飲んだ。
「うむ分かった。時間をつくろう。それで私はどこに行けばいい?」
アリアスの返答に、さして旬は驚きもせずに話を進めるが、周りは度肝を抜かれたように旬を見た。
「って、そうだった……今あの本持ってきてない」
書庫で意見を訊きたい旨をアリアスに伝えるも、検証に使う日本語の本は宿屋に置いてあり、取りに戻る必要が出て来た。
「一旦戻るのは少々手間だな。……ならばこれはどうだ? 私が貴公の部屋に行こう」
またもやどよめきが起こるも、旬とアリアスは気にしない。というより気が付いていない。
「でもそうすると、こっち側の本が無いんですよ。書庫は持ち出し禁止ですし」
「本くらい私が持っているぞ。それを持って行こう」
「本当ですか!? ありがとうございます」
「何、私も貴公の事は気になるのでな、お互い様だ」
もちろん異世界から来たという点が気になっているわけで、旬もそう汲み取ったのだが、周りにそれをしろというのは酷である。
人目も避ける事が出来る利点もあり、宿屋にアリアスが来るという事で話は纏まった。
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