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旬は宿屋に帰る為に城から出ようとした時、その足を止めると振り返った。
エントランスからキャス子が外に出て来ない……いや、出て来れないのだ。
「そっか、お前城だから出れないのか」
〈……はい〉
キャス子の光はふわふわと浮かんでいるが、見えない壁があるのか進む事が出来ないのだ。
「今日はもう帰るけど、また会える? いや、城だし違う……まあいいや、また会えるわけだから、その時はよろしく」
旬はそう言うと、城の壁をペシペシと叩く。
〈はい。その時を……楽しみにしてまス〉
キャス子は声を震わせると、城と同化した。
どれくらいキャス子が一人だったか旬は分からないが、異世界で一人ぼっちになった旬だからこそ、その恐さは知っている。
またそれ以上に、人の優しさが見せる暖かさを知っている。
厳重な城門を抜けて緩い坂道を下る途中で、旬はふと振り返って城を見た。
綺麗な城壁がより一層美しく見えた気がして、旬は自分の目を疑い目頭を押さえる。
次の瞬間には綺麗な城壁に戻っていたのだが、宿屋に向かう旬の足取りは軽かった。
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