嘘の裏側

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「あなたを愛しています」 そう言って俺を抱きしめるこいつを、どう理解すればいいのか。 …気持ち悪い。 そんないつもの軽口なんて出てくるわけがない。 なぜなら、わけのわからないこの状況を心から嬉しく思う俺が確実に存在しているからだ。 どうしようかという思案や、今後の付き合い方とか、そんなものをすべて飛び越えて、ただ体が熱くなる。 無意識のうちに腰に腕を回そうとした瞬間。 先のその言葉の直前を思い出して、腕が止まる。 「今日は、4月1日ですから」 目前に浮かぶ、そう呟いて遠くを見ていたずるい横顔。 あぁ、そうか。 こいつはすべてを嘘にしてしまうつもりだ。 強く抱きしめられたこの感触だけを俺に残して、すべてをなかったことに。 それはなんて臆病で、なんて大胆で、そして、なんて情けない行動。 しかし、そんなことですら胸を打つなんて。 どうかしている、俺も…おまえも。 何も答えない俺をどう取ったのか、さらに強くなる腕。 ぴたりと密着する四肢。 途端、ドクリとスピードを上げる鼓動に、自身の諦めを悟る。 知ってしまったこの体温を、どうあがいても手放すことなどできない。 もっと、と貪欲に渇望する感情は、決して思い通りになんかならないもの。 だから俺は、言葉で縛り付ける。 「俺も、同じ気持ちだ」 「…え?」 「今日が4月1日だということは絶対に忘れるな」 たったその一言の呪文で、縛り付ける。 end
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