その、理由

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放課後にしてはいささかタイミングの外れたこの時間、俺はのんびりと廊下を歩いている。 何の因果か運悪く俺だけがHR終了直後に教師に捕まり、授業準備やら何やらをやらされていたからだ。 何やらというのには、どうやら当然のごとく整理整頓が組み込まれていたらしい。 そのおかげでこんな時間になってしまったというわけだ。 これで部室に入るやいなやハルヒにでも怒鳴られようものなら、音便平和に過ぎた今日いちにちが崩れ去るというもの。 どうにか残り時間を無事に過ごしたい。 そう思うなら少しでも急げばいいのだろうが、そこまでの体力は今の俺には残されていない。 そんな風につらつらと考えつつ、僅かばかり身構えて開いたドアの先。 「…随分と、遅かったですね」 手にした文庫本に丁寧に栞を挟んで手元に置き、こちらに顔を向けたのは古泉ひとりだった。 「あぁ、おまえだけか」 思わず呟いた言葉に他意はない。 単に責めるようなハルヒの視線がなかったことに拍子抜けしただけだ。 だというのに、古泉は心外だとでも言うような表情を作って肩をすくめる。 「僕だけではご不満ですか」 定位置となっている目の前の椅子に腰を降ろす俺を、逐一視線が追う。 不満だとか不満じゃないとか、それはさしたる問題ではない。 こうして不意に2人きりという状況になってしまったことになぜか緊張している自分に、嫌気がさしているだけ。 「ところで、約三名の姿が見えないようだが」 このままこの話を続けるつもりは毛頭ない。 さりげなくを装うこともせずに話題をそらせば、古泉はそれを気にした様子もなく頷いた。 「三人で買い物に行くようですよ。男子禁制!だそうです」 ハルヒの口調を真似た言い方が微妙に似ていて、光景が鮮やかに目に浮かぶ。 こんな風に、ごく普通の女子高生然とした行動にはどこか安心する。 突飛な事を言いだして巻き込まれる可能性が減るから、というのはもちろんだが。 ハルヒや朝比奈さんはもちろん、あの長門にとっていい影響になるのではないかと思うからだ。 全てにおいてつまらないと思うハルヒの不満も、それに巻き込まれる朝比奈さんの動揺も、ただ観察するだけの長門の沈黙も。 三人のガールズトークにはそれらを解決してしまうほどの力があるのではないかと…まぁ、それは高望みしすぎなわけだが。 何にせよ、俺が関わらずとも楽しそうな三人を見るのは俺にとっても嬉しいこと。
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